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ラテンアメリカの左旋回
――正しい左派と間違った左派を区別せよ

ホルヘ・G・カスタニェーダ/ 元メキシコ外相

Latin America's Left Turn

2006年7月掲載論文

ラテンアメリカ全域で左派勢力が台頭し、市場経済に向けた改革路線、議会制民主主義に対する激しい逆風が吹きはじめている。しかし、そこに正しい左派と間違った左派が存在することを認識する必要がある。旧共産・社会主義系左派は、自らの失敗と昔のモデルの欠陥を認め、態勢を立て直すことに成功し、ラテンアメリカのよい統治に必要なものを提供する資質を持っている。一方、資源を国有化してカネをばらまき、でたらめな経済路線をとり、ナショナリズムを鼓舞して権力を奪い取ろうとする左派ポピュリストは、全く変化していない。チャベスに代表される左派ポピュリストにとって、貧しい選挙区の絶望は政治が取り組むべき課題ではなく政治の道具にすぎない。最大の問題は、左派ポピュリストが民主主義よりも権力を愛し、権力を維持するためなら大きな犠牲を払ってもかまわないと考えていることだ。

  • ラテンアメリカにおける左派の台頭
  • なぜ左派が台頭しているのか
  • 二つの左翼のルーツ
  • 変貌を遂げた旧共産主義・社会主義系左派
  • ポピュリストの台頭
  • 正しい左派と間違った左派

<ラテンアメリカにおける左派の台頭>

中道派のテクノクラート政権がラテンアメリカに続々と誕生し、経済発展と民主化に向けた好ましい連鎖がはじまるかにみえたのはわずか10年前のこと。当時メキシコでは北米自由貿易協定(NAFTA)に勢いを得たカルロス・サリナス大統領が後継者を次期大統領にすえる準備を着々と整え、ブラジルの大統領選でもフェルナンド・エンリケ・カルドゾ元蔵相が急進派のルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ労働党党首を抑え込む勢いを持っていた。アルゼンチンのカルロス・メネム大統領もペソ相場をドルに連動させ、大衆迎合(ポピュリスト)的なペロン主義を引き出しに仕舞い込んだ。

ラテンアメリカ諸国の指導者たちが、ビル・クリントン米大統領の呼びかけに応じて、マイアミで開かれる米州首脳会議に出席する意欲を示すなど、西半球の北と南はかつてないほどのまとまりをみせようとしていた。

あれから10年。なんという変わりようだろうか。

たしかに、この2年間、ラテンアメリカは空前の高成長を遂げているし、民主主義を脅かすような脅威も見当たらない。だが、政治状況は一変してしまった。この地域は急速に左旋回し、過去15年間の大きなトレンド、つまり、市場経済に向けた改革路線、対米協調路線、そして議会制民主主義に対する激しい逆風が吹きはじめている。いま起きているのは政策の左傾化というよりも、政治そのものの左傾化だ。微妙な変化だが、それでも現実に左への急旋回が起きている。

8年前にベネズエラでウゴ・チャベスが大統領に選ばれて以降、ラテンアメリカ諸国では「左派」系の指導者、政党、運動が大きく台頭しており、前メキシコ市長のアンドレス・マヌエル・ロペスオブラドールの当選が有力視されている2006年7月2日のメキシコ大統領選も、この流れを加速させることになるだろう。

チャベスの勝利後も、ブラジルではルラが大統領選に勝利し、労働党が躍進した。アルゼンチンでもネストル・キルチネルが、ウルグアイでもタバレ・バスケスが、そして今年初めにはボリビアでもエボ・モラレスが大統領に選ばれた。仮に6月のペルー大統領選挙決選投票で左派民族主義者のオヤンタ・ウマラが勝利し、メキシコでもロペスオブラドールが勝利するとすれば、まさに左傾化の波がラテンアメリカ全域を覆いつくすことになる。コロンビアと中央アメリカだけがこの波に覆われていないかもしれないが、ニカラグアにおいてさえ、サンディニスタ民族解放戦線のダニエル・オルテガが勝利する可能性は排除できない。

世界もラテンアメリカにおける左派台頭の波に気づきはじめ、状況を懸念するとともに、拒絶反応をみせだしている。しかしこうした流れの背景を理解するには、まず今日のラテンアメリカの左派には二つのタイプがあることを認識しなければならない。一つは、筋金入りの共産主義をルーツとしつつも、現代的で開放的、改革主義で国際主義的な勢力へと変貌した左派勢力。もう一つはポピュリズムというラテンアメリカの伝統を背景に、ナショナリズムを唱えつつ大げさで乱暴な主張を展開する閉鎖的な左派勢力だ。第一のグループは過去の過ち(そしてかつて手本としていたキューバやソビエトの過ち)をよく理解したうえで大きな変貌を遂げてきた。しかし第二のグループは違う。

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